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世界で最も優美な生き物 ビクーニャの魅力  

アンデスの女王

アルゼンチンの高地に暮らす優美な獣“ビクーニャ”(Vicugna vicugna)。

引き締まった肢体を持ち、時速70キロで駆け抜けることが出来ます。

アンデスの山を背に首筋を真っすぐ伸ばして立つ凛とした姿は、

誰もが思わず息を呑むほどの美しさです。

背中と首筋、頭の毛は薄茶色、顎のあたりと胸元の長い毛とお腹にかけてはオフホワイトの美しい毛並みを有しています。

“アンデスの女王”と呼ばれるに相応しいその姿はペルーの国旗にも描かれており、目にしたことのある方も居られるかも知れません。

ビクーニャは、ラマやアルパカと同じ、ラクダの仲間です。

群れを作って、標高約4000m〜5000mの高地で暮らしています。

富士山の標高3776mと比べれば、どれほどの高地か想像して頂けるのではないでしょうか。

昼間は20℃、夜になると−8℃まで冷え込む土地で、耐え抜く毛をビクーニャは持っています。

保温性に優れたその毛は非常に細く、軽いのが特徴で、その細さは10〜14ミクロンです。

ミクロンとは、1mmの1000分の1のこと。

人間の髪の毛が60〜100ミクロン、よく知られるカシミヤで14〜16ミクロンですから、驚くほど細いことが分かります。

それ故、ビクーニャの毛から織りあげられる繊維は驚くほど柔らかく、しなやかです。

ビクーニャの魅力

インカ帝国時代、ビクーニャの毛は“神の繊維”と呼ばれる貴重品でした。

王の衣装に用いられたと言われています。

現在は希少種として保護されているビクーニャですが、スペインが征服する1530年以前は、200万頭ほどが生息していたと言われています。

リャマやアルパカと違い、人に慣れることのない、ビクーニャは家畜にすることが出来ません。

非常に繊細で捕まえられると食事を摂らずに死んでしまうのです。

また胸元の白く、長い毛を刈り取ってしまうと寒さのために、命を落としてしまいます。

良質な毛と肉を求めて乱獲され、1950年代には40万頭、1960年代には僅か1万頭までその数を減らしました。

状況を危惧したペルー政府が1967年に、パンパ・ガレーラスに国立保護区を設立。

20世紀に入ると、ワシントン条約によって希少種として保護の対象となり、努力の甲斐もあって現在は40万頭まで、その数を戻しています。

2002年にインカの時代に行われていた“チャク”と呼ばれる儀式が復活しました。

ビクーニャを、生きたまま捕らえ、その毛皮を刈り取るための追い込み猟です。

ストレスを与えることなく短時間で毛だけを刈り取り、野に戻します。

毛を刈ることが出来るのは、1頭につき2年に一度。

3センチ以下の毛は刈り取らない決まりです。

それぞれの個体を見分けられるように、1頭ずつ印が付けられています。

1頭から取れる毛は僅か250〜350g。

セーターを1枚作るためには、6頭分の毛が必要です。

一年間に生産されるビクーニャを全てコートにした場合でも、僅か350着分にしかなりません。

また製品のほとんどはヨーロッパに提供されるため、日本では入ってこない品ということです。

それほど希少だからこそ、ビクーニャの毛は1キロあたり、500ドル以上の値で取引されています。

地元の人たちにとって、ビクーニャは大切な収入源であると同時に、愛し、守るべき存在に違いありません。

神の繊維と言われる由縁

刈り取られたあと、太い毛は取り除かれ、柔らかな毛だけが紡がれます。

長さ3cmの綿毛を紡いだ紡毛糸(ぼうもうし)は、より暖かさを纏います。

さらにチーズル起毛させて仕上げられた光沢のある織物。

それがビクーニャです。

1980年代まで、日本では加工品を“ヴィゴーニュ”と呼んで、区別していましたが、現在では織物も“ビクーニャ”と呼ぶことが多くなりました。

市場にほとんど出回ることがないため、多くの方はその名前をご存知ないかも知れません。

受け継がれる至宝

マチュピチュに代表される、インカ帝国から受け継がれる“神の繊維”は、その希少性を除いても余りある魅力に溢れています。

ビクーニャで作られたセーターは、一着が1000ドル以上。

コートになると10000ドル以上の価格が付けられています。

貴重な繊維で作られる品は、シンプルでオーソドックスなラインがほとんど。

スタイルを追うのではなく、繊維そのものに時空を超えた価値が、ビクーニャにはあるとの現れでしょう。

“神の繊維”は世代を超え、孫子の代まで、大切に引き継がれていきます。

もし、どこかで目にする機会があれば、ぜひ足を止めてください。

吸い付くような柔らかな生地に触れるとき、アンデスを駆け抜ける、美しいビクーニャの姿をぜひ、思い描いて頂きたいと思います。

参考

「国際文化」とは

WWFジャパン