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シルクの魅力を紐解く  

日本人にとって、絹はとても馴染みの深い繊維です。

麻や綿と同じくらい、もしくはそれ以上に愛用されています。

しなやかな肌触り。美しい光沢。

手にすると冷たく、滑らかな感触。

身にまとうと心がどこか引き締まります。

特に和装で重宝される“絹”のこと。

改めて、紐解いてみたいと思います

  • 魔法の糸の紡ぎ方

絹は何から出来ているか、知っておられますか?

1871年(明治4年)に、明治天皇の皇后である昭憲皇太后が宮中での養蚕を再興して以来、皇后親蚕として養蚕業を振興する目的で続けられてきました。

そうです。“蚕”という虫が吐き出す糸から出来ています。

“蚕”は誕生してから4回、脱皮をします。

幼虫の間は桑の葉を食べ続け、25日ほどで繭を作って蛹化し、その後、2週間ほどで羽化して成虫になります。成虫した蚕は交尾し、500個程度の卵を産みますが、成虫の間は何も食べないまま、オスは2、3日。メスは4、5日で短い生涯を終えるのです。

蚕は蛹になるとき、自らの口から糸を吐き出して繭を作ります。吐き出される糸の長さは1,500メートルほど。切れることなく1本に繋がっています。2、3日掛けて繭が完成します。成虫になるとき、繭を破って出てくるため、糸が切れてしまいます。そこで繭の状態で煮る、つまり煮繭(しゃけん)して糸を巻き取るのです。近年では冷凍する方法も用いられていますが、いずれも蚕は成虫になる前に命を落とすことになります。

写真や映像で見たことがある、という方は居られても実際に見たことがある、という方は多くはありません

なぜなら、“蚕”は野生の生き物ではないからです。

「え、蛾の幼虫だと思っていた」「山の中にいる虫じゃないの?」

そんな風に思われる方もおられるのではないでしょうか。

元々は野生にいた蛾を、数千年かけ、今のように“絹”を作るために改良を重ねてきました。

蚕は幼虫の間はほとんど動かず、成虫になっても飛ぶことは出来ません。つまり、人間の手によって育てられなければ、生きていくことが出来ないのです。

  • 養蚕(ようさん)の流れ

絹を取り出すため、繭を採取する目的で蚕を飼育することを“養蚕”と言います。蚕が吐き出した糸が“繭糸”で、それを取り出し複数本束ねたものが“生糸”。さらに精錬し、撚って(ねじって)加工したものが“練糸”です。

それらを全て“絹糸”と呼んでいます。

“絹”はフィブロインというタンパク質が原料のため、素肌に優しく、光沢があり、吸湿性・放湿性に優れているのが特徴です。繭自体に90%もの紫外線を吸収する力があるため、日除け用としても優秀な素材です。

  • 日本の養蚕業

2014年に世界遺産に登録された“富岡製糸場と絹産業遺産群”はご存知でしょうか。

戦後、日本の生糸は最大の輸出品目であり、政府は品質を向上するため、国を挙げてフランスの技術を導入した“富岡製糸場”を群馬県に設立しました。養蚕業は、国家の基盤を築く上で重要な役割を担っていたのです。

皇居にある紅葉山御養蚕所では毎年6月に“初繭掻き”が行われます。

かつて世界一を誇った日本の生糸生産量は、1929年の40万トンがピークでした。その後、年々減少し、令和2年には12トンほど。非常に少なくなっていますが、現在は化粧品の材料としても注目され、また繊維としての価値も見直されていることから、日本でも養蚕復活の兆しが見え始めています。

  • “蚕”の一生

長い年月を掛けて、野性の蛾を飼いならした“蚕”。

中国の帝王・黄帝の妻である西陵氏が現在の“養蚕”を始めた、という伝説が残っています。黄帝の存在自体が不確かなため、この話の真偽はわかりません。ただ紀元前2750年頃の、浙江省の遺跡から“絹製品”が出土していることから中国大陸に起源があることは間違いないとされています。

対して日本の最古の絹は、弥生中期前半の紀元前1世紀頃のものが、福岡市早良区有田遺跡から出土しています。その繊維断面から、紀元前2世紀かそれ以前に、中国から“養蚕”の技術がもたらされたと考えられます。

当時、中国では門外不出の技術だったことから、漢族と対抗していた部族の手によって伝わったとされています。

蚕には大きく分けて日本種・支那(中国)種・欧州種の3種類があります。

日本在来種として紅葉山御養蚕所でも飼育されている蚕が“小石丸”です。

蚕の中で、最も細く、艶と張りがある糸を吐き出すとされています。ただ繭の大きさが非常に小さく、生糸量が極めて低いために一時は養蚕業としては飼育されてきませんでした。

そんな中、皇室を中心に大切に守られ飼育されてきた希少種なのです。

絹は、たとえ火の中であっても、かなりの高温(約350度)にならないと、燃え尽きることはありません

夏に涼しく、冬に暖かい。自然の恩恵をたっぷりと享受できる絹の魅力。

蚕の短く、美しい一生に思いを馳せながら、“絹”に触れる機会をぜひ、楽しみたいですね。

参考:

群馬県立世界遺産センター

https://worldheritage.pref.gunma.jp/tomikinu/index.php/kids-history/

農研機構

https://www.naro.go.jp/publicity_report/season/134952.html

シルクの考古学

https://www.jstage.jst.go.jp/article/fiber1944/45/6/45_6_P277/_pdf

「絹の東伝」 布目 順郎著